漫画家・イラストレーターの方へ|「平均課税」を知っていますか?知らないと損する税金の話

埼玉県川口市で公認会計士・税理士をしております、奥中です。
今回は、平均課税というテーマでお話しします。

まずは前提知識として、累進課税についておさらいしましょう。
所得税は「累進課税」といって、所得が増えるほど税率も上がっていく仕組みです。具体的には5%から45%まで、7段階の税率が設定されています。

所得税の速算表

課税される所得金額税率控除額
1,000円 〜 194万9,000円5%0円
195万円 〜 329万9,000円10%9万7,500円
330万円 〜 694万9,000円20%42万7,500円
695万円 〜 899万9,000円23%63万6,000円
900万円 〜 1,799万9,000円33%153万6,000円
1,800万円 〜 3,999万9,000円40%279万6,000円
4,000万円以上45%479万6,000円

<参考>No.2260 所得税の税率 | 国税庁

※上記に加えて、令和19年分まで復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)がかかります。

この表を見ていただくとわかるとおり、たとえば所得が330万円までなら税率10%ですが、900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%まで上がります。

何も対策をしない場合、
漫画がヒットしたり、単行本の印税がまとめて入ったりした年。普段の何倍もの収入が一気に入ると、その年だけ高い税率が適用されてしまうことになり、何年もかけて描き続けてきた作品なのに、収入が入った年にだけ重い税金がかかってしまいます。

そこで活用したいのが「平均課税」という制度です。

これを使うことにより、場合によっては数十万円〜数百万円単位で税額が変わることがあります。

この記事では、漫画家・イラストレーターの方に向けて、平均課税の仕組みと使い方をできるだけわかりやすく整理してみました。

目次

目次

  1. 平均課税とは?
  2. 対象になる所得(変動所得)
  3. 平均課税が使える条件
  4. 適用OK・適用NGパターン一覧
  5. 計算の仕組み(5分5乗方式)
  6. 具体例で見る節税効果
  7. 同人誌の売上は対象になる?
  8. 経費の按分について
  9. 申告の手続き
  10. 過去の申告で使い忘れていた場合
  11. 注意点まとめ

平均課税とは?

平均課税とは、収入の変動が大きい業種の方に対して、所得税の負担を緩和するための制度です(所得税法第90条)。

「5分5乗方式」とも呼ばれ、ざっくり言うと「急に増えた所得を5で割って低い税率を適用し、それを5倍して税額を出す」という計算方法です。

5で割って5倍するなら同じでは?と思うかもしれませんが、ここに所得税の累進課税の仕組みが絡むことで、結果的に税率が下がり、税負担が軽くなります。

ポイント:

  • 事前届出は不要(確定申告時に選択すればOK)
  • 有利選択なので、通常計算と比べて有利な方を選べる
  • 青色申告・白色申告どちらでも使える
  • 副業で原稿料収入がある方も使える場合がある

対象になる所得(変動所得)

平均課税の対象となるのは「変動所得」と「臨時所得」です。漫画家・イラストレーターの方に関係するのは主に変動所得で、以下のものが該当します。

対象になるもの(変動所得) 対象にならないもの
出版社から受け取る印税同人誌を自分で印刷・販売した売上
出版社・クライアントからの原稿料コミケ・BOOTHなどでのイベント収入
電子書籍の印税グッズ販売の売上
著作権の使用料FANBOXやPixivFANBOXの支援金
作曲料(作曲もされる方)アシスタント業務による給与・外注収入

<参考>変動所得・臨時所得の説明書

変動所得は法律で列挙されたもの(限定列挙)に限られます。原稿料や印税は明確に含まれていますが、同人誌の「自費出版→販売」の収入は印税ではないため、変動所得の対象外です。

なお、変動所得には漁業関連の所得(はまち・まだい・ひらめ・うなぎ等の養殖による所得)なども含まれますが、ここでは漫画家・イラストレーターに関係する部分に絞って解説します。

平均課税が使える条件

平均課税は誰でも使えるわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。

パターン①:前々年・前年に変動所得がなかった場合

その年の変動所得の金額 ≧ その年の総所得金額 × 20%

たとえば、初めて商業連載が決まって原稿料収入が入った年などが該当します。変動所得が総所得の20%以上を占めていれば適用できます。

パターン②:前々年・前年にも変動所得があった場合

以下の両方を満たす必要があります。

① その年の変動所得 ≧ その年の総所得金額 × 20%

② その年の変動所得 >(前々年の変動所得 + 前年の変動所得)× 1/2

②の条件は、「今年の変動所得が、過去2年の平均を超えていること」を意味します。つまり、収入が右肩上がりで伸びている年にも使えるということです。

「売上がデコボコしているときしか使えない」と思っている方もいるようですが、毎年順調に伸びている場合でも条件を満たせば使えます。


適用OK・適用NGパターン一覧

条件だけ見ても「結局、自分は使えるの?」と判断しにくいですよね。そこで、漫画家・イラストレーターの方がよくあるケースを「適用できる」「適用できない」に分けて整理してみました。

◎ 適用できるパターン

No.ケース前々年の変動所得前年の変動所得今年の変動所得今年の総所得判定
1初めて商業連載が決まった年(それまでは同人活動のみ)0円0円500万円600万円○ 変動所得500万円 ≧ 総所得600万円×20%(120万円)
2単行本がヒットして印税が急増200万円300万円1,500万円1,500万円○ ①20%要件:1,500万円≧300万円 ②過去平均超え:1,500万円>(200万円+300万円)÷2=250万円
3毎年右肩上がりで連載が増えている300万円500万円900万円900万円○ ①20%要件:900万円≧180万円 ②過去平均超え:900万円>(300万円+500万円)÷2=400万円
4副業漫画家(会社員+原稿料)0円0円200万円700万円○ 変動所得200万円 ≧ 総所得700万円×20%(140万円)。副業でもOK
5アニメ化で著作権使用料がまとまって入った年100万円100万円800万円800万円○ ①20%要件:800万円≧160万円 ②過去平均超え:800万円>(100万円+100万円)÷2=100万円

× 適用できないパターン

No.ケース前々年の変動所得前年の変動所得今年の変動所得今年の総所得判定
6同人誌販売のみで原稿料・印税がない0円500万円× 同人誌の売上は変動所得に該当しない。変動所得が0円なので適用不可
7原稿料はあるが割合が小さい(イラスト教室の収入がメイン)0円0円50万円400万円× 変動所得50万円 < 総所得400万円×20%(80万円)。20%未満で適用不可
8毎年安定して同じくらいの原稿料600万円600万円500万円500万円× 今年の変動所得500万円 ≦ 過去2年の平均(600万円+600万円)÷2=600万円。②の要件を満たさない
9今年は原稿料が減った年(連載が終了)800万円700万円400万円400万円× 今年の変動所得400万円 ≦ 過去2年の平均750万円。②の要件を満たさない
10FANBOX・グッズ収入が中心で印税はわずか0円0円30万円500万円× 変動所得30万円 < 総所得500万円×20%(100万円)。20%未満で適用不可

判定のフローチャート

迷ったときは、以下の順番で判定してみてください。

Step 1: 印税・原稿料・著作権使用料による所得(=変動所得)はありますか?
→ なければ 適用不可(同人誌販売・FANBOX等のみでは使えません)

Step 2: その変動所得は、今年の総所得金額の20%以上ですか?
→ 20%未満なら 適用不可

Step 3: 前々年・前年に変動所得はありましたか?
→ なかった場合 → Step 2をクリアしていれば 適用OK
→ あった場合 → Step 4へ

Step 4: 今年の変動所得は、前々年と前年の変動所得の平均額を超えていますか?
→ 超えている → 適用OK
→ 超えていない → 適用不可


大事なポイント: 平均課税は「有利選択」です。
上記の条件を満たしていても、通常計算の方が税額が安くなるケース(実務的にはまれですが)では、あえて平均課税を使わないこともできます。逆に、条件を満たしているのに「知らなかった」ために使わないのは、もったいないです。

計算の仕組み(5分5乗方式)

計算の流れを4ステップで説明します。少し複雑ですが、確定申告書等作成コーナーを使えば自動で計算してくれます。

ステップ1:平均課税対象金額を求める

前々年・前年に変動所得がない場合は、単純にその年の変動所得がそのまま平均課税対象金額になります。

前々年・前年に変動所得がある場合は次のとおりです。

平均課税対象金額 = その年の変動所得 −(前々年の変動所得 + 前年の変動所得)× 1/2

ステップ2:調整所得金額を求める

調整所得金額 = 課税総所得金額 − 平均課税対象金額 × 4/5

ここが「5分の1だけ残す」部分です。平均課税対象金額の5分の4を差し引くことで、税率を計算するベースを小さくします。

ステップ3:調整所得金額に対する税額を求める

調整所得金額を課税総所得金額とみなして、通常の超過累進税率(所得税の速算表)で税額を計算します。そこから「平均税率」を算出します。

平均税率 = 調整所得金額に対する税額 ÷ 調整所得金額

ステップ4:最終的な税額を求める

所得税額 = 調整所得金額に対する税額 +(課税総所得金額 − 調整所得金額)× 平均税率

残りの5分の4に対しても、ステップ3で求めた「低い平均税率」を適用して税額を出す、というのが全体の仕組みです。

具体例で見る節税効果

設例:初めて単行本の印税が入った漫画家Aさん

項目金額
原稿料・印税収入(変動所得に係る収入)2,000万円
必要経費(変動所得に係るもの)500万円
変動所得の金額1,500万円
その他の所得なし
所得控除の合計200万円
課税総所得金額1,300万円
前々年・前年の変動所得なし

適用判定: 変動所得1,500万円 ≧ 総所得1,500万円 × 20%(300万円)→ 適用OK

通常計算の場合

課税総所得金額税率控除額所得税額
1,300万円33%153.6万円275.4万円

平均課税を適用した場合

ステップ計算金額
平均課税対象金額1,500万円(前年・前々年なし)1,500万円
調整所得金額1,300万円 − 1,500万円 × 4/5 = 1,300万円 − 1,200万円100万円
調整所得金額に対する税額100万円 × 5%5万円
平均税率5万円 ÷ 100万円5%
残りの所得に対する税額(1,300万円 − 100万円) × 5%60万円
平均課税による所得税額5万円 + 60万円65万円

比較

計算方法所得税額差額
通常計算275.4万円
平均課税65万円▲210.4万円

この例では約210万円の節税になります。これに復興特別所得税(2.1%)や住民税への影響も加えると、実際の手取りへの影響はさらに大きくなります。

※これは変動所得のみで他の所得がない、かつ前年・前々年に変動所得がないケースを想定した計算例です。実際の金額は個々の状況により異なります。


同人誌の売上は対象になる?

ここは非常によくある質問です。

結論:原則として、同人誌の自費出版・販売による売上は変動所得の対象外です。

変動所得に該当するのは「印税」や「原稿料」であり、自分で印刷して即売会やBOOTHで販売する同人誌の売上は、商品を製造・販売する事業収入(=通常の事業所得)になります。

ただし、同人作家の方でも、出版社から原稿料や著作権使用料を受け取っている場合は、その部分は変動所得に該当する可能性があります。

収入の種類変動所得に該当するか
出版社からの原稿料○ 該当する
出版社からの印税(紙・電子とも)○ 該当する
著作権使用料(アニメ化等)○ 該当する
コミケ等での同人誌販売× 該当しない
BOOTHでの同人誌・グッズ通販× 該当しない
FANBOX等の支援金・サブスク収入× 該当しない
アシスタント業務の報酬× 該当しない

経費の按分について

漫画家・イラストレーターの方の多くは、印税・原稿料収入と、同人誌販売やグッズ販売の収入の両方があるかと思います。

平均課税を使う場合、売上だけでなく経費についても、変動所得に対応する部分とそれ以外の部分に区分する必要があります。

経費の区分方法

区分の方法考え方
個別対応が可能な経費そのまま振り分ける(例:同人誌の印刷代→変動所得以外)
個別対応が難しい経費収入金額の比や従事割合、使用割合などで合理的に按分

たとえば、液タブやペンタブはどちらの作業にも使用しますよね。この場合、印税・原稿料収入とそれ以外の収入の比率で按分するのが一般的な方法です。

<参考>法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》関係 | 国税庁(基本通達90-5)

また、青色申告特別控除額がある場合は、変動所得とそれ以外の所得の金額比率で青色申告特別控除を割り振ることになります。

帳簿をつけるときのコツ: 売上と経費を「印税・原稿料」と「それ以外(同人誌販売等)」で区分して記帳しておくと、確定申告時の計算がずっと楽になります。マネーフォワードやfreeeなどのクラウド会計ソフトでは、補助科目や取引先タグを活用すると区分しやすいです。


申告の手続き

平均課税を適用するには、確定申告書とあわせて**「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」**を提出する必要があります。

提出に必要なもの

書類備考
確定申告書 第一表「平均課税対象金額」「変動・臨時所得金額」欄に記載
確定申告書 第三表(分離課税用)平均課税適用時に使用
変動所得・臨時所得の平均課税の計算書確定申告書に添付して提出

<参考>変動所得・臨時所得の平均課税の計算書 | 国税庁

<参考>変動所得・臨時所得の説明書 | 国税庁

確定申告書等作成コーナーでも対応可能

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用する場合も、平均課税の入力に対応しています。画面の案内に沿って入力すれば、計算書が自動で作成され、e-Taxで提出する場合は電子的に送信されるため、紙の添付は不要です。

<参考>確定申告書等の作成 | 国税庁

重要: 平均課税は確定申告期限(3月15日)までに申告することが原則です。期限後に「やっぱり平均課税を使いたい」と思っても、原則として適用できませんのでご注意ください。


過去の申告で使い忘れていた場合

「過去の確定申告で平均課税を使えたのに、使わないで申告してしまった…」という方、ご安心ください。

申告期限から5年以内であれば、「更正の請求」により税金の還付を受けることができます。

更正の請求とは、確定申告で税額を多く申告してしまった場合に、正しい税額への訂正を税務署に求める手続きです。

過去に印税や原稿料で大きな収入があった年について、「あのとき平均課税を使っていれば…」と思い当たる場合は、過去の申告書や収支の記録を確認してみてください。条件を満たしていれば、還付を受けられる可能性があります。

<参考>No.2026 確定申告を間違えたとき | 国税庁


注意点まとめ

最後に、平均課税を検討する際の注意点を整理しておきます。

注意点内容
対象所得は限定列挙印税・原稿料・著作権使用料等のみ。同人誌販売やグッズ販売は対象外
総所得の20%以上が必要変動所得が少額の場合は適用できない
経費の区分が必要変動所得に対応する経費とそれ以外を分けて計算する
帳簿・記録の保存が重要収入や経費の記録がないと正確な計算ができない
申告期限を守る原則として期限内申告が必要
有利選択通常計算と比べて不利なら使わなくてよい
税理士に依頼している場合も確認を平均課税の検討をしてくれない税理士もいるようなので、ご自身から「原稿料収入があるので平均課税が使えるか調べてください」と伝えると安心

おわりに

漫画家やイラストレーターの方にとって、作品をつくるのに費やす時間と労力は何年にもわたるものです。にもかかわらず、収入が入った年にだけ高い税率が適用されるのは、やっぱり負担が重い。

平均課税は、そんな負担を緩和するために設けられた制度です。

この記事を読んで「もしかして自分にも使えるかも?」と思われた方は、ぜひ一度ご自身の収入の内訳を確認してみてください。印税や原稿料が収入の中心であれば、活用できる可能性は高いです。

ご自身での判断が難しい場合や、過去の申告で使い忘れていた可能性がある場合など、お気軽にお問い合わせください。


参考リンク

国税庁公式サイト

法令


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