※本記事は令和8年度税制改正の内容にもとづく解説です(令和8年9月時点)。今後、政令・通達・国税庁のQ&Aで細部が明らかになる可能性があります。
「うちは今まで通りで大丈夫ですよね?」と聞かれたのですが
9月も終わりに近づき、そろそろ「来年の確定申告、どうしようか」と考え始める方が増えてくる時期です。
先日、川口市内で個人事業を営んでいる方から、こんなご相談をいただきました。
「青色申告特別控除が75万円に増えるって聞いたんですが、うちも自動的に増えるんですか? 会計ソフトは使っていて、申告書はいつも印刷して税務署に出しています」
結論から申し上げると、この方は何も対策をしないと、控除額が55万円から10万円へ、45万円減ってしまいます。
令和8年度税制改正による青色申告特別控除の見直しは、「最大75万円に増える」という明るい見出しの裏で、紙で申告している方にとっては大幅な減額という顔を持っています。しかも適用は令和9年分(令和10年に行う確定申告)から。準備に使える時間は、実質的にあと1年少々です。
この記事では、
- 何がどう変わるのか
- ご自身がどの区分に当てはまるのか
- 令和8年中に何をしておけばよいのか
を、順を追って整理します。
この記事の要点(3行まとめ)
- ✅ 令和9年分から、青色申告特別控除は 75万円/65万円/10万円 の3区分に再編されます
- ✅ 現行の 55万円控除(複式簿記+紙の申告)は廃止。紙のまま続けると原則10万円です
- ✅ 75万円を取るには「複式簿記+期限内e-Tax」に加えて、電子帳簿の要件と届出書が必要です
1. 何がどう変わるのか(現行と改正後の比較)
| 現行(令和8年分まで) | 改正後(令和9年分から) | |
|---|---|---|
| 最高額 | 65万円 | 75万円 |
| 複式簿記+e-Tax+電子帳簿等 | 65万円 | 75万円 |
| 複式簿記+e-Tax | 65万円 | 65万円 |
| 複式簿記+紙で申告 | 55万円 | 10万円 |
| 簡易簿記 | 10万円 | 10万円(※下記の除外あり) |
ポイントは2つです。
① 「電子申告しているだけ」では最高額が取れなくなる
現行制度では、複式簿記で記帳して e-Tax で申告すれば65万円が取れました。改正後は、これが65万円のラインに”据え置き”になります。75万円を取るには、さらに電子帳簿に関する要件を1つクリアする必要があります。
② 紙の申告に対するペナルティが一気に重くなる
現行55万円 → 改正後10万円。差額45万円です。所得税率20%の方なら、住民税10%とあわせて年間13万円前後の負担増になる計算です。
2. 【注意】簡易簿記の方は「控除ゼロ」になることがあります
改正でもう1つ見落とされがちなのが、10万円控除の対象者からの除外規定です。
国税庁の資料では、次のように整理されています。
その年において不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む者で、これらの所得に係る取引を簡易な簿記の方法により記録している者のうち、その年の前々年分のこれらの所得に係る収入金額が1,000万円を超える者は、10万円の青色申告特別控除が適用できなくなります。
判定は「所得金額」ではなく 「収入金額(売上)」 である点にご注意ください。経費を引く前の数字です。
つまり、売上1,000万円超で簡易簿記のままの方は、青色申告特別控除がゼロになります。ただしこれは簡易簿記の場合の話で、複式簿記に切り替えれば65万円・75万円のルートに乗れます。消費税のインボイス登録で売上規模が把握されやすくなっていることも考えると、該当しそうな方は早めの切り替えをおすすめします。
3. あなたはどの区分? 3つの質問でチェック
順番に ✅ を付けてみてください。
Q1. 複式簿記で記帳し、貸借対照表を作成していますか?
- いいえ → 10万円(または控除ゼロ)ルート。まずは会計ソフトで複式簿記への切り替えを。
- はい → Q2へ
Q2. 確定申告書・青色申告決算書を、期限内にe-Taxで送信していますか?
- いいえ(紙で提出) → 改正後は10万円。e-Tax化が最優先です。
- はい → 65万円は確保。さらにQ3へ
Q3. 「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」の要件を満たし、届出書を出す準備がありますか?
- いいえ → 65万円のまま
- はい → 75万円
4. 75万円に上乗せするための「2つのルート」
65万円から75万円に上乗せするには、次のどちらかを満たします。
ルートA:優良な電子帳簿
仕訳帳・総勘定元帳について、電子帳簿保存法が定める「優良な電子帳簿」の要件を満たして保存する方法です。主な要件は次のとおりです。
- ✅ 記録の訂正・削除の履歴が確認できること
- ✅ 帳簿と関連する他の帳簿との相互関連性が確認できること
- ✅ 取引年月日・金額・取引先による検索ができること
- ✅ システム関係書類(マニュアル等)を備え付け、税務調査時に速やかに画面・書面で提示できること
freee会計やマネーフォワードクラウドといった主要なクラウド会計ソフトは、この要件に対応した機能を備えています。ただし「ソフトを使っている=自動的に要件を満たす」わけではありません。ソフト側の設定(優良な電子帳簿モードの有効化など)と、会計期間の当初からその状態で記帳していることが必要です。年末に慌てて設定しても間に合いません。
ルートB:デジタルシームレス保存
銀行明細・クレジットカード明細・請求書データなどの取引データを、手入力を介さずデータのまま帳簿に連携して保存するという考え方です。主な要件は次の3点とされています。
- ✅ 訂正・削除の履歴が残る、またはシステム的に訂正・削除ができないこと(改ざん防止)
- ✅ 電子取引データが帳簿に適切に記録されること(記帳の適正性)
- ✅ 取引データと仕訳の相互関連性が確認できること
クラウド会計で銀行口座・カードを同期し、レシートや請求書もデータのまま取り込んでいる方は、実務としてはすでに近いことをしている可能性があります。
5. 忘れてはいけない「届出書」
どちらのルートを選んでも、事前に届出書の提出が必要です。これが最大の落とし穴かもしれません。
国税庁が公表している様式では、次の2種類が用意されています。
- ルートA用:「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る75万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」
- ルートB用:「電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の不適用の特例及び75万円の青色申告特別控除(個人事業者)の適用を受ける旨の届出書」
提出期限は、適用を受けようとする年分の確定申告期限までとされています。令和9年分であれば、令和10年(2028年)3月15日が目安です。
帳簿の保存要件は「その年の期首から」満たす必要がある一方、届出書は申告期限までに出せばよいとなっており、このタイミングのズレが混乱を生じやすい箇所になると思います。
「帳簿は令和9年1月から、届出書は令和10年3月まで」と覚えておいてください。
6. 令和8年中にやることチェックリスト
改正の適用は令和9年分ですが、帳簿の要件は令和9年1月1日から満たしている必要があるため、準備は令和8年中に終わらせるのが鉄則です。
📌 今年(令和8年)中に
- ✅ 会計ソフトを導入・見直す(まだ手書き・エクセルの方は最優先)
- ✅ 複式簿記での記帳に切り替える
- ✅ ソフトの「優良な電子帳簿」設定を有効化する
- ✅ 銀行口座・クレジットカードの同期を設定する(事業用と私用の口座を分ける)
- ✅ e-Taxの利用環境を整える(マイナンバーカード、暗証番号、カードリーダーまたはスマホ連携)
- ✅ 請求書・領収書をデータで受け取る運用に切り替える
📌 令和9年に入ったら
- ✅ 1月の最初の取引から、整えた環境で記帳を開始する
- ✅ 年の途中でソフトを乗り換えない(会計期間を通じた要件充足が必要なため)
📌 令和10年の申告時
- ✅ 届出書を確定申告期限までに提出する
- ✅ e-Taxで期限内に申告する(1日でも遅れると65万円・75万円は適用されません)
7. よくある誤解
「クラウド会計を使っているから自動的に75万円ですよね?」
→ いいえ。ソフトの設定と届出書がセットで必要です。
「e-Taxで出しているから大丈夫」
→ それは65万円のラインです。75万円には電子帳簿の要件が上乗せされます。
「期限に遅れても青色申告なら控除は残りますよね?
→ 期限後申告の場合、65万円・75万円は適用できず10万円になります。
「節税効果は所得税だけ?」
→ 住民税や国民健康保険料にも波及します(一方、個人事業税の計算では青色申告特別控除は控除されません)。65万円→75万円の10万円分でも、所得税・住民税あわせて年2〜4万円程度の差になる方が多いはずです。
8. 「うちはどうすればいい?」を一緒に整理します
当事務所は、戸田市・川口市・蕨市を中心に、個人事業主・フリーランスの方の記帳と確定申告をサポートしています。freee認定アドバイザーとして、freee会計・マネーフォワードクラウドの導入から、電子帳簿保存法への対応、e-Taxでの申告までを一貫してお手伝いできます。
今回の改正は、「今の運用のまま放っておくと損をする」改正です。
特に、
- 会計ソフトは使っているが紙で申告している
- 売上1,000万円前後で、記帳は簡易簿記のまま
- 領収書の山を年末にまとめて処理している
このいずれかに当てはまる方は、令和8年中に一度整理しておくことを強くおすすめします。
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